【飛び地】
飛び地といえば、全国唯一の飛び地の村、北山村が有名だが、その南西、いわゆる和歌山県との間にもうひとつ小さな飛び地がある。新宮市熊野川町の飛び地だ。今回の旅は、ここから始まる。旅女子は、伊舞なおみさん(写真左)と覚道沙恵子さん。このコンビは2回目。前回は約1年前、2021年7月に、飛び地の北山村を旅して、観光筏下りを堪能した。 ⇒ 「北山、唯一の村で唯一を楽しむ」(伊舞なおみ&覚道沙恵子) 今回も筏下りと同じ北山川が舞台で、「瀞峡めぐり」に臨む。“秘境の川”コンビが誕生したかもしれない。
瀞峡めぐりの幟
飛び地マップ
☆番組は、ここから聞くことができます。
自撮り中の覚道さん
伊舞さんの帽子留め
乗船場があるのは新宮市熊野川町玉置口(たまきぐち)。国道311号・国道168号を北山村方面に向かい瀞峡トンネルの手前(南側)から右手に細い道を下りていくとある。木造の小屋が受付で、その前に駐車場がある。近くには広い芝生広場もあった。乗船までの時間に、覚道さんがなにやら自撮りを始めた。伊舞さんは、風で帽子が飛ばないようにとダブルクリップ(事務用品!)で留めた(写真を拡大表示すると分かる)。
瀞峡と遊覧船
瀞峡は、和歌山・奈良・三重の県境を流れる北山川が作り出した渓谷で、切り立った崖や巨岩・奇岩と、美しい川で、絶景と賞される場所。吉野熊野国立公園内にあり、下流から、下瀞(しもどろ/1.2km)、上瀞(かみどろ/2km)、奥瀞(おくとろ/28km)に分かれ、このうち下瀞は瀞八丁(どろはっちょう)ともいわれ、国の特別名勝・天然記念物。
「瀞」という文字は、「とろ」または「どろ」と読み、「川が深くて、流れが非常に静かなところ」の意。
瀞峡めぐりの遊覧船は、大正時代にプロペラ船で始まり、昭和40年以降はウォータージェット船が運航し、人気となったが、紀伊半島豪雨や新型コロナウイルスの影響で、2021年1月を以て休業した。そして、2022年3月末、新たに、川舟(和船/わせん)を使った観光クルーズが始まった。世界遺産、川の参詣道「熊野川・川舟下り」と同じ、熊野川町ふれあい公社が運営し、川舟センターで予約を受け付けている。運航は3~11月で、毎週月曜は運休日。完全予約制。「瀞峡めぐり 川舟クルーズ」は、玉置口乗船場を発着する下瀞と上瀞の遊覧で約40分。
女子たちはライフジャケットを身につけ、船頭さんとともに乗船場に歩いて行く。受付の小屋から数分。船頭さんはガイドを兼ねる。この日の船頭さんは、プロペラ船の頃から50年以上、瀞峡観光船に携わっている佐野健一(さの・けんいち)さん70歳。瀞峡を知り尽くすベテランだ。
船頭さんと乗船場へ
女子たちが乗る和船
川舟クルーズの舟は、水色のFRP船と、木舟の2艘ある。女子たちが乗ったのは船体が水色の方。舟の長さ7.89m、幅175cm、深さ43cmで、中に木製のベンチがある7人乗り。もう1艘の木舟もほぼ同じ大きさだが、乗船定員は12人と少し多い。ただ、今は8人に減らして運航しているという。取材ロケの日は他にもお客さんがあり、木舟に乗って、先に出発した。
木舟が出発
出発!爽快な川舟
女子たちも砂利の川岸から舟に乗り込んだ。瀞峡へ向けて出発だ。エンジン音とともに心地よい震動が伝わってくる。川面を渡ってくる風や細かな水しぶきも気持ちいい。水がとにかく澄んでいる。まわりの緑も美しい。爽快だ。瀞峡まで、船頭の佐野さんが、岩に咲く花を案内してくれる。カワサツキ、フジ、ヤマボウシ…。初夏から夏が花の多い季節という。
岩肌に赤いカワサツキの花
川の水のきれいさ!
川の水量は上流にある3つのダム(小森ダム・七色ダム・池原ダム)で管理・調整されているから安心できる。さらに、川の水は、ほとんど濁る日がないとも聞いた。一般に、雨上がりの日は川が濁っているのではないかと心配しがちだが、その必要はないらしい。むしろ、逆に、山から川に注ぎ込む小さな川や滝の水量が多く、迫力が増しているのだそうだ。雨上がりにも訪れてみたい。
【瀞峡】
◇下瀞(瀞八丁)
玉置口乗船場から約5分で瀞峡の入り口にやってきた。まずは、下瀞(瀞八丁)1.2kmのクルーズだ。2つ並んだ巨岩は夫婦岩、斜めになった岩は亀岩など、岩にはいろいろな名まえが付けられている。
瀞峡の入口へ
亀岩
舟を操縦しながら、船頭さんが右手側(三重県)、左手側(和歌山県)と視線を誘導し、ガイドをしてくれる。大自然に囲まれている快感がいい。岩の上の倒れた木は、紀伊半島豪雨で倒れたものだが、落ちてこないかドキドキとか。
川舟クルーズを楽しむ女子たち
落ちない倒木
下瀞
下瀞
岩の裂け目、洞窟もある。寒泉窟(かんせんくつ)は奥行き42m。川舟は小さいので洞窟にも入っていく。あっ、ひんやりする。細い水の流れがあり、上空から差し込む日の光にキラキラと輝く。水音にも耳を傾け、素敵な時間、神秘的な景色を味わう女子たち。
寒泉窟
寒泉窟
瀞峡の最深部は、水深24mという。舟から手を伸ばし水を触ってみた。おお冷たい。気持ちいい。
下瀞
下瀞
◇三県境
左手前方の崖の上に建物が見えてきた。あそこは奈良県。建物は瀞(どろ)ホテル。かつてはホテルだったが、今はカフェだ。ただし、新型コロナウイルスの感染拡大以降は予約が必要らしい。瀞ホテルから対岸(和歌山県)に吊り橋が架かる。橋は、紀伊半島豪雨で壊れたまま。この橋の下を葛川が北山川に注いでいる。これらの川がそれぞれの県境になっていて、合流点は、すなわち、和歌山・奈良・三重の3県の県境が交わる三県境(さんけんきょう)となっている。そして、下瀞と上瀞の境目でもある。
崖の上に瀞ホテル
崖の上に瀞ホテル
◇上瀞
三県境を越えると上瀞に入る。右手は三重県、左手は奈良県となる。瀞ホテルの下の河原は田戸(たど)乗船場。川舟クルーズは立ち寄らないが、瀞峡観光ウォータージェット船の頃は、立ち寄っていた。今も、ここを発着するほかのクルーズはある。そして、前方の上空に吊り橋が見えてきた。山彦橋だ。女子たちがくぐったときは、点検をしているらしき人がいた。
田戸乗船場
山彦橋をくぐる
「左側にアユがいる」そんな船頭さんのことばに視線をやると、底まで透き通る水の中にアユの群れが見えた。ゲンキだ。右手には小ぶりの美しい「母子(ははこ)の滝」。
アユの群れが見える
母子の滝
上瀞
上瀞
ユニークな岩、すごく大きい岩、滝など、ダイナミックな景色が目白押しで、どこを切り取っても絶景、そんな時間が続く。雄大な自然の中で、船頭さんの話を聞く心地よさも快感だ。
上瀞
上瀞
ゆっくりと景色を楽しんだり、少しスピードを上げて風と水を切って進んだり、気づくと、上瀞の終点が近づいていた。先に出発した木舟が戻ってきた。ここから先(上流)は奥瀞で、このまま遡っていくと北山村に行くという。白波が立っている。「見覚えがある」と覚道さん。観光筏下りでの激しい流れのことを言っているようだ。
木舟が前から
上瀞終点、前方は奥瀞
◇復路
「瀞峡めぐり 川舟クルーズ」はここまで。舟は、Uターンして、乗船場に戻る。通ってきた瀞峡の絶景を反対向きに見ながら下る。上りは川の流れに逆らっている上、ガイド多めなのに対して、復路は、川の流れと同じ上、説明が少ないので、時間は短い。往路と異なる水路を通ったりもする。
Uターンした直後の景色
復路、中洲の脇を行く
玉置口乗船場に戻ってきた。木舟はすでに接岸し、乗客は降りている。トータル40分ほどの船旅は、内容が濃く、素晴らしいレジャーと感じた。皆さんにオススメするとともに、また乗りたいと思った。「瀞峡めぐり 川舟クルーズ」の予約を受け付けている熊野川川舟センターに3月末のスタート以降の状況を聞いたところ、認知度アップとともに、徐々に予約が増え、ゴールデンウィーク頃からは好調と話していた。梅雨明け後の真夏には格好のレジャーとなりそうだ。秋は秋で良さそうだけど。
復路、瀬を行く川舟
復路、まもなく乗船場
船頭の佐野さんに話を聞いた。15歳から瀞峡観光船に携わっていて、現在70歳。50年以上だ。すごい。「瀞峡は素晴らしい。飽きない。最高のところ」と話した。「お待ちしています」とも。
船頭の佐野健一さん
船頭さんと舟と
【三県境】
川から見た瀞峡を岸からも見たい。そんなわけで、三県境の崖の上にやってきた。場所としては、奈良県十津川村。眼下の瀞峡、三県境を見下ろしてみた。上からの景色も圧巻だ。
瀞峡と三県境の案内看板
眼下の瀞峡を望む
瀞ホテルの近くに句碑が立つ。「三国にまたがる声やほととぎす」。「良い句」と覚道さんが言い、作者を気にしていたので、調べてみた。「詠み人知らず」のようだ。出典もわからなかった。それはともかく、女子たちは三県境を見下ろす岩場に近づいて、「またがる声」を試してみた。反響周期が短いので、ことばを返すことはできないが、きれいによく響く。
句碑
声を響かせる女子たち
さらに、崖沿いの石段を下りて、北山川の河原までやってきた女子たち。ここが田戸乗船場。そして、あらためて水を触ってみた。つめた~い。泳ぎた~い!と覚道さん。
崖のような石段を降りる
北山川の河原へ
【山彦橋】
最後は山彦橋。川舟クルーズで下をくぐった奈良県と三重県を結ぶ吊り橋だ。高さ25m、長さ83mと書かれている。渡ってみよう!
山彦橋に到着
高さ25m・長さ83m
足もと(歩くところ)には幅1mほどの木の板が敷かれているが、手すり(つかまるところ)はない。板以外は、ワイヤーやネットはあるものの素通しで、川が見えている。
少しひるむ女子たち
吊り橋を渡る女子たち
キャーキャー言いながら渡っていく女子たち。「瀞峡めぐり」クルーズの体験者には、この吊り橋もセットで楽しんでほしいと女子たち。このコンビは、次もまた「どこかの秘境で」などと言っているが、それはわからない。
山彦橋に女子たち
吊り橋からの景色
三県境周辺は、2017年12月の
「口熊野から奥熊野、秘境を訪ねる旅」(三浦ちあき&柳橋さやか)で訪れている。この時、田戸乗船場で遭遇した「瀞峡観光ウォータージェット船」を見て、女子たちは「かっこいい」「乗りたい!」となった。しかし、実現しないまま「ジェット船」が終わってしまった。そんな訳で、新しく「瀞峡めぐり」が始まったのを知って、早速やってきた。舟の形も旅女子メンバーも異なっているが、天気にも恵まれ、番組5年越しの「瀞峡めぐり」が実現した。
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