湯浅、醸造の町をめぐる旅

【湯浅】

湯浅(ゆあさ)といえば醤油発祥の地で、醤油醸造の古い町並みが残る町。そして、重伝建(じゅうでんけん)と日本遺産という言葉をよく見るし、よく聞く。今回は、伊舞なおみさん(写真左)と深井瞭さんの2人(初コンビ)で、そのあたりを探り、新しい醸造所も訪ねる。

日本遺産の看板前から

日本遺産の看板前から

湯浅に醤油を訪ね、古い町並みをめぐるのは、2017年8月の「由良・湯浅、醤油のルーツと醤油香る町を訪ねる旅」(三浦ちあき&上林君江)以来。

☆番組は、ここから聞くことができます。

重伝建とは、重要伝統的建造物群保存地区のこと。重伝建地区と言ったりもする。湯浅は2006年12月に国の指定を受けた。一方、日本遺産は「『最初の一滴』醤油醸造の発祥の地 紀州湯浅」というストーリーが、2017年4月、国に認定された。今年4月で認定5年となる。地区には、重伝建についての説明書きや地図、駐車場がある。地区の駐車場は数台分だが、150メートルほど北に広い無料の観光客用駐車場があるので、町歩きの際にはぜひ活用を。

重伝建地区の案内板

重伝建地区の案内板

重伝建地区の町家

重伝建地区の町家

古い町並みは、気持ちを落ち着かせ、懐かしさを覚える。実際に、その時代を生きてはいないにもかかわらずだから、日本人のDNAに刷り込まれているのかもしれない。家や商店には、せいろにその時代にものを入れて展示する「せいろミュージアム」が掲げられ、一層、その時代感を醸す。深井さんは「タイムスリップしたかのよう」と言った。
せいろミュージアム

せいろミュージアム

重伝建地区の町並み

重伝建地区の町並み

【角長】

天保(てんぽう)12年創業「角長(かどちょう)」。老舗の醤油蔵。昔ながらの手づくり醤油を醸造している。天保12年とは1841年。江戸時代。伊舞さんが何とか引っ張り出した天保の知識「天保の改革」は老中、水野忠邦(みずの・ただくに)によるもので、1841年から1843年のこと。偶然だが、まさにその頃だ。

角長の看板

角長の看板

角長の前で

角長の前で

当初の目的は、醤油資料館だけだったが、角長の店舗に入ると「見ていく?」と声を掛けられた。「ぜひお願いします」と、少し見学をさせてもらう。角長の加納恒儀(かのう・つねのり)さんに案内してもらった。
醤油醸造の話を聞く

醤油醸造の話を聞く

角長の加納恒儀さんと

角長の加納恒儀さんと

醤油づくりの最後の工程「火入れ」をしている大きな釜にびっくり。こうじ菌が醤油を醸す「仕込み蔵」には大きな桶(おけ)がずらり。実際には、桶かどうかはわからず、大きな穴が並んでいて、またまたびっくり。直径2メートル、深さ2メートルの桶一つで醤油が1升瓶(1.8リットル)約3,000本分作られるらしい。そんな桶が24個。加納さんは、「こうじ菌に良い仕事をしてもらうために、撹拌している」と話した。「醤油は、菌がつくってくれるから自分たちは環境を整えるだけ」と。伝統の技を操る、職人の言葉は深い。圧をかけて醤油を絞る機器の布の枚数にも驚いた。創業時から同じ建物、同じ蔵、同じ杉桶を使い続けていると聞いて、さらに驚く。
醤油醸造樽の部屋

醤油醸造樽の部屋

醤油を搾る工程

醤油を搾る工程

◇醤油資料館

まずは、職人蔵と書かれた醤油博物館へ。ここは無料開放されている。誰でも自由に何度でも見学できる。醤油づくりの工程に沿って、古い機器や道具が並べられ、歴史を知る資料の展示もある。ここからは、角長OGの本下博美(ほんげ・ひろみ)さんに案内してもらう。小学生の団体見学などを一手に引き受けているというベテランだ。

醤油資料館へ

醤油資料館へ

本下博美さんの解説で見学

本下博美さんの解説で見学

普段は無人の展示施設ということで、各所に説明があり、わかりやすい。案内してほしいときは、角長にお願いすれば良いらしい。
角長ののれん

角長ののれん

湯浅醤油の起源

湯浅醤油の起源

金富良(コンプラ)醤油は、江戸時代、鎖国の中にあって、長崎の出島から輸出されていたという。この容器は長崎の波佐見(はさみ)で焼かれた白磁製。ロシアの文豪、トルストイも金富良醤油を手に入れ、空き瓶となったあとも一輪挿しとして愛用していたというエピソードがあるらしい。
醤油と角長の歴史資料

醤油と角長の歴史資料

金富良醤油(瓶)

金富良醤油(瓶)

角長ののれんや、帳場が雰囲気を伝えている。角長の当主は、加納長兵衛(かのう・ちょうべえ)さん。現在は五代目で、大正15年生まれ。名前は世襲されているという。訪ねた際、六代目にあたる加納誠(かのう・まこと)さんは店頭でお客さんを迎えていた。仕込み蔵などを案内してくれたのは七代目。さらに、その息子さん2人(八代目)が小学生で「醤油屋さんになる」と話しているとか。素晴らしい。
角長の帳場

角長の帳場

小麦割砕機

小麦割砕機

人力の小麦割砕機は国内に1台、ここだけという貴重なもの。仕込み桶の中で発酵し、醤油ができていく。
麹室と諸蓋

麹室と諸蓋

麹室

麹室

醤油造りの工程を教えてもらった。
1:小麦を煎る
2:大豆を蒸す
3:小麦を粉にする
4:こうじ菌を加える。こうじ菌は、うぐいす色(緑色)。
5:室(むろ)に入れて4日間おく。室内の温度は25~35度、湿度は95%以上。これで、四日麹(醤油の素)になる
6:塩水とともに、杉桶に入れる。こうじ菌は呼吸しているので櫂(かい)で混ぜ、底まで酸素を送る。蔵に住み着いている蔵酵母も作用する。ここまでの中身をもろみという。
7:もろみを絞り器で絞る。
8:絞った液体を釜で炊く。
ここまで1年半ほど。
仕込桶

仕込桶

撹拌櫂棒

撹拌櫂棒

仕込みは冬が良いという話も聞いた。櫂入れ歌があるという。混ぜていると櫂が摩耗していく。もろみを絞ったかすは家畜や魚(マグロ・ハマチ)のエサになるといい、このエサで育てられた魚はおいしいらしい。火入れはアカマツの薪が良く、ガス火はNGなんだとか。
櫂入れ唄

櫂入れ唄

醤油搾り船

醤油搾り船

◇民具博物館

新しい資料館ともいう。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、閉めているが、事前連絡をすれば、入れてもらえる。

角長・民具博物館

角長・民具博物館

民具博物館前で本下さんと

民具博物館前で本下さんと

女子2人は、本下さんに連れられて、2階へ。角長の創業時からの大福帳がある。本物。毎年1冊。分厚い年はよく売れた年。ペリー来航、安政の大津波、日清戦争など、本下さんは簡単に口にする。180余年の歴史はすごいとあらためて実感する。展示の中では、日清戦争の年の売り上げがイチバン。「戦地に醤油を持って行くと何でも食べられた」らしい。この年の醤油が残されている。液体がわかるという。
角長の大福帳

角長の大福帳

明治時代に作られた醬油

明治時代に作られた醬油

角長とともに歴史を刻んできた温度計がまだ現役だ。醤油発祥や醤油づくりについて、ビデオを見ながら、本下さんの解説を聞く。醤油を発明したのは、由良の興国寺(こうこくじ)の開祖、覚心(かくしん)=法燈国師(ほっとうこくし)。1207-1299。生まれは長野県、19歳で高野山へ。41歳で中国へ渡り、径山寺(きんざんじ)で6年。帰国し、金山寺味噌を伝えた。帰国後10年、味噌の上においしい汁がたまっていることに気づく。これが醤油のきっかけ。「たまり」の語源は、たまっていたから。そして、発祥の地が由良ではなく湯浅になったのは、由良の水は石灰分が多く、醤油づくりに適していなかった。それに対し、湯浅は、山田川(やまだがわ)の水が良かった。川のそばでは、伏流水も豊富で、この水質が素晴らしいのだという。この水によって、醤油の歴史が始まった。その始まりの「最初の一滴」のストーリーは、2017年日本遺産になった。
大きな温度計

大きな温度計

ビデオ鑑賞

ビデオ鑑賞

角長の店の裏には、醤油積出港だった大山堀(だいせんぼり)があり、県道をはさんで、山田川が流れる。「最初の一滴」をもたらした川だと思うと感慨深い。そして、大山堀からは、全国へ、世界へと醤油が出荷されたのだろうと歴史に思いをはせる。そんな歴史の中にある角長だが、製法はそのままに、熟成期間を延ばし、火入れをしない醤油を産み出すなど、伝統の中から新たな発見や発明をし、私たちに届けてくれるのがありがたくもあり、嬉しくもある。誇らしくもある。もっと深く知りたくなった。
大仙堀

大仙堀

山田川

山田川

【湯浅ワイナリー】

新しい醸造所、湯浅町栖原(すはら)に3年前に開業した「湯浅ワイナリー」へ。真新しい建物の入口には、工場見学と試飲の案内がある。そのイラストは西馬功(にしうま・いさお)工場長だった。工場長に案内してもらう。

湯浅ワイナリーへ

湯浅ワイナリーへ

湯浅ワイナリー入口

湯浅ワイナリー入口

まずは、2階へ。広いスペースがある。団体の見学や試飲にも対応しているのだという。窓から階下の工場が見学できる。ピカピカの機材が並んでいる。
工場見学

工場見学

ワイン製造工場

ワイン製造工場

有田みかんのリキュール「勹果(ほうか) 初しぼり 有田みかん」の充填作業をしていた。訪問時「まもなく出荷」という段階(2月11日発売)。その時々で、ワイン作りの工程が見学できるほか、映像でワインづくりを学習できる。ワインはステンレス熟成と樽熟成があるといい、樽熟成庫も見せてもらった。
勹果初しぼり有田みかん製造中

勹果初しぼり有田みかん製造中

工場長の西馬功さんに話を聞く

工場長の西馬功さんに話を聞く

1階には試飲ルームと売店がある。湯浅ワイナリーの販売商品がすべて展示・販売されている。バー・カウンターのある試飲ルームは雰囲気が抜群。団体見学の試飲は2階の大部屋、個人客はこちらという話。ここは個人で行きたいところ。
試飲ルームののれん

試飲ルームののれん

ワインがずらりー

ワインがずらりー

工場長が、バー・カウンターに入り、ワインをチョイス、注いでくれる。湯浅ワイナリーでは、試飲専用グラスを使っているという。なんと国際基準があるのだとか。グラスの音が心地よい。そして、待望の試飲タイム。熟成の違いや果実の違いなど、それぞれに飲み比べて、好きなものを買ってもらおうということだ。そもそも女子たちに違いはわかるのか。本人たちは「あっ、ちがう!」と言っていた。
試飲ワインと工場長

試飲ワインと工場長

試飲中の女子たち

試飲中の女子たち

体験コーナーもある。ワインボトル用バッグに絵を描いたり、ワイングラスに付けるグラスマーカーづくりができる。興味がある方は申し込んでみて。
体験コーナーもある

体験コーナーもある

体験・展示コーナー

体験・展示コーナー

工場見学や試飲は、申し込めば、誰でもできるので、こちらもぜひ。また、近くには海岸があり、夏は海水浴場にもなる。そういう立地だ。楽しみ方は色々ありそうだ。ところで、湯浅ワイナリーのワインの原料となるブドウは山梨産ということだが、有田川町の巨峰村でブドウの栽培も始めているといい、近い将来、オール和歌山産のワインが誕生しそうだ。これは待ち遠しいぞ。
湯浅ワイナリー前で

湯浅ワイナリー前で

須原海岸で

須原海岸で

湯浅町内には、同じ系列の「湯浅 美味いもん蔵」(観光駐車場の隣り)があり、こちらでも湯浅ワイナリーの商品を購入できる。発売初日に「勹果 初しぼり 有田みかん」を買ってきて、女子たちにも試飲を頼んだ。おいしいと好評だった。
勹果 初しぼり 有田みかん

勹果 初しぼり 有田みかん

湯浅美味いもん蔵

湯浅美味いもん蔵

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