発心門発大斎原、本宮で熊野古道を歩く旅

【 熊野本宮大社 】

今年(2022年)は、熊野本宮大社の正遷座(しょうせんざ)130年の年。1889年(明治22年)の紀伊半島大水害で、熊野本宮大社は多くの社殿が流される甚大な被害を受け、難を逃れた四社が現在の地に移された。移されてから130年の年という訳だ。そして、旧社地があったのは熊野川の中洲の大斎原(おおゆのはら)。いつかは歩きたいと言い続けてきた、三浦ちあきさん(写真右)と伊舞なおみさんの2人が、今回の旅で、念願の熊野古道を歩く。旅では、まず、熊野本宮大社で参拝をすませ、その神域とされる発心門王子(ほっしんもん・おうじ)から大斎原までの約7キロに挑む。

熊野本宮大社・神門前

熊野本宮大社・神門前

☆番組は、ここから聞くことができます。

今回で17回目の旅という最多最強の女子2人が、初めて旅したのは5年前、2017年7月の「本宮から新宮へ、世界遺産・熊野参詣道をたどる旅」だ。この時と同じ場所から旅が始まった。5年の間に、「年齢だけじゃなく色々重ねた」と話した三浦さんと、「ゆっくり歩きたい」という伊舞さん。取材ロケの日は平日だったが参拝者は多かった。女子2人も早速、158段の参道の石段を上った。5年前には、伊舞さんの息が上がっていたが、今回は三浦さんの息が荒い。どんな旅になるのか。
熊野本宮大社

熊野本宮大社

マスクした狛犬

マスクした狛犬

5年前と大きく違うことといえば、新型コロナウイルスの流行がある。大社の狛犬(こまいぬ)や、真っ黒な八咫(やた)ポストの八咫烏(やたがらす)もしっかりとマスクをしている。もちろん神職の皆さんも、参拝者も。
参道の石段を見上げる

参道の石段を見上げる

参道の石段を上る

参道の石段を上る

参拝の作法や参拝順を確認し、神門(しんもん)をくぐる。大絵馬とともにしめ縄の大きさにあらためて驚きながら境内へ。玉砂利を踏みしめて、拝殿に向かう。
参拝の作法や順序を確認する

参拝の作法や順序を確認する

大絵馬と大しめ縄

大絵馬と大しめ縄

拝殿前が女子2人だけになるタイミングがあった。神様の粋な計らいか。そして、2人は何をお願いしたのか。旅の安全もお願いしたいと、スタッフ一同。
熊野本宮大社に参拝

熊野本宮大社に参拝

熊野本宮大社に参拝

熊野本宮大社に参拝

社務所前にある神木、多羅葉(たらよう)の下に、八咫ポストはある。マスクをした八咫烏の下にはしっかり「祈コロナ収束」と書かれている。そして、これ、本物の郵便ポストで、郵便を差し出せる。
黒い八咫ポスト見っけ

黒い八咫ポスト見っけ

【 熊野古道 】

熊野詣の人たちが歩いた道が熊野古道だ。ユネスコの世界遺産では、熊野参詣道(みち)という区分になる。今回、女子2人が歩いた発心門王子から大斎原までは、熊野参詣道・中辺路(なかへち)の一部となる。熊野本宮大社の神域とされるエリアで、かつ、上り坂が少ないことから人気だ。

<発心門王子>

発心門王子は、熊野九十九王子の中で格式が高い五体王子のひとつ。ここから、熊野本宮大社の神域となる。重厚な世界遺産の石碑が立つ。

世界遺産の石碑

世界遺産の石碑

鳥居をくぐり、赤い社に参拝する。無事に歩けることを祈願するつもりが「完走」と口にしてしまう三浦さんと、すかさず突っ込む伊舞さん。やりなおそう。そんなやりとりも含め、熊野の神様は、笑って見守ってくれるはずだ。
発心門王子

発心門王子

発心門王子に参拝

発心門王子に参拝

発心門王子から約50メートルのところに、バス停がある。熊野本宮温泉郷や熊野本宮大社などと発心門王子間にバスが運行されている。例えば、熊野本宮大社近くにマイカーを停めて、バスで発心門まで行き、熊野古道を歩くといったことができる。その拠点がここ。休憩所やトイレ、駐車場もある。熊野古道歩きの人に向け、次のトイレまでの距離などの案内もある。また、熊野古道には、基本的に飲料の自動販売機や食事施設はないという認識で歩きたい。
発心門バス停

発心門バス停

トイレまでの距離案内

トイレまでの距離案内

発心門をスタートしてからの熊野古道は舗装された道だ。高低差はほとんど感じない。歩きやすい道が続いている。色んな案内や導きが楽しい。
熊野古道を歩く女子

熊野古道を歩く女子

八咫烏の道案内

八咫烏の道案内

熊野古道には番号道標がある。中辺路ルートでは、滝尻(たきじり)王子から熊野本宮大社まで、500メートル間隔で75番まで。何かトラブルがあったときなどに、場所を知らせる助けになるとともに、女子たちも持っている観光協会などが配布しているウォーキングマップに掲載されていて、現在地を知ることもできる。ここ64番は、発心門王子から2つめ、めざす75番は大社の直近となる。
番号道標(64)見っけ

番号道標(64)見っけ

熊野古道を歩く女子

熊野古道を歩く女子

<水呑王子>

発心門王子を出発しておよそ30分、距離は1.7キロ、水呑(みずのみ)王子に着いた。ここは社などはなく、王子跡。目の前に広場があったり、近くに木造の建物や水が貯まったプールのような区画があったり。ここは、かつて小学校の分校があった場所だという。なるほど。

水呑王子について

水呑王子について

水呑王子跡

水呑王子跡

ここ水呑王子で熊野古道は左折し山道へ。石畳の道が見える。ここからはこういう道かと思った途端、それは終わり、大小の石が埋め込まれた道や土の道に。そして「蘇生の森熊野古道」と書かれた石柱を見つけた。なかなか進まない。行くぞ!
いきなりの石畳

いきなりの石畳

「蘇生の森熊野古道」の石柱

「蘇生の森熊野古道」の石柱

杉木立に囲まれた森の中を歩く女子たち。景色が格好良い。
熊野古道を歩く女子

熊野古道を歩く女子

熊野古道を歩く女子

熊野古道を歩く女子

森を抜け、視界が開けた。
森を抜けた女子2人(熊野古道)

森を抜けた女子2人(熊野古道)

開けた景色

開けた景色

足元にトイレまでの距離表示がある。ここは、水呑王子と伏拝(ふしおがみ)王子の中間らしい。近くで大きな手づくり感満載の絵地図を見つけた。「わがらの いそしい じげつくり」とある。この地域の方言で、「いそしい」は「元気な」こと、「じげ」は「地元」や「村」のことで、前述のフレーズは「わたしたちの 元気な むらづくり」となる。15年くらい前に地域の人たちの町おこし活動の一環で作られたもので、古道歩きの人たちに、地域のことを教えてくれている。
トイレまでの距離案内

トイレまでの距離案内

伏拝絵地図

伏拝絵地図

森を抜けて、再び舗装された道になった熊野古道。しばらく行くとかわいい道標と地元富士の案内がある。標高783メートル、百前森山(ひゃくぜんもりやま)のこと。
かわいい道標と地元富士

かわいい道標と地元富士

地元富士こと百前森山

地元富士こと百前森山

熊野古道沿いの民家の前に「菊水井戸」と書かれた井戸があった。このあたりは、標高があるにもかかわらず、あちこちに湧水ポイントがあるのだとか。この井戸もそのひとつで、旅人の喉を潤してきたという。そして、歩いていると「メェ~~」という鳴き声が聞こえてきた。声のする方を見ると、白いヤギが2匹駆け寄ってきた(実際には柵があるので、柵まで走ってきた感じ)。「かわいい」を連発してマイクを向ける三浦さんだが、相手にされていない。
菊水井戸

菊水井戸

ヤギにインタビュー

ヤギにインタビュー

<伏拝王子>

水呑王子から1.9キロ、ウォーキングマップの想定は30分だが、女子旅チームは1時間半を要した。発心門王子から水呑王子まではほぼ想定時間通りだったが、ここに来てずいぶんかかった。もちろん、女子たちは、ずっと歩き続けているのではなく、何かを見つければ立ち止まって、マイクを持って、収録をするという作業の繰り返しのため、通常の古道歩きに比べ時間がかかるのは当然だが…。そして、ここから、熊野古道は再び未舗装の土の道になる。

伏拝王子からの眺め

伏拝王子からの眺め

伏拝王子に参拝

伏拝王子に参拝

長らく山中を歩いてきた熊野詣の人々が、この場所で、連なる山々の向こうに、めざす熊野本宮大社の社殿を目にし、感激して伏して拝んだとされる伏拝王子。社はなく、跡。山々を展望できる場所に、女子2人も立ってみたが、視界の中に見えているのかどうかが分からない。いにしえの人たちが見た社殿は、明治の大水害で大半が流出し、残った社殿も現在地に移されたことから、今は建物がないからだ。そして、今年は、社殿を現在地に移してから130年の年という。女子たちは、ゴールがそこに見えていると信じて、手を合わせた。
伏拝茶屋

伏拝茶屋

紀伊山地の参詣道ルール

紀伊山地の参詣道ルール

伏拝王子の近くには、無料休憩所の伏拝茶屋がある。週末などは、コーヒーやジュースの販売もしているようだが、普段は無人。また、そこに「紀伊山地の参詣道ルール」が記されている。これ、もっと広めたい。
道しるべ

道しるべ

キイジョウロウホトトギス

キイジョウロウホトトギス

伏拝茶屋前の熊野古道沿いの石垣に、絶滅危惧種のキイジョウロウホトトギスが植えられていて、ちょうど咲いていた。近くの茶畑では、茶の白い花も咲き、古道に秋の深まりを告げていた。このあたりは、音無茶(おとなしちゃ)の産地だ。そして、かつてのテレビ番組のロケ地の案内もあった(2001年10月~2002年3月にNHKで放送された連続テレビ小説「ほんまもん」のロケ地)。
お茶の花(音無茶)

お茶の花(音無茶)

テレビのロケ地

テレビのロケ地

<三軒茶屋>

伏拝王子からおよそ30分、1.2キロ歩くと吊り橋風の道路に架かる橋に出た。九鬼ヶ口(くきがぐち)吊橋といい、この橋が熊野古道になっている。橋の下に舗装された道路(林道)が見える。女子たちがここに来るまでに山中で時折、聞いた水の音は、音無川(おとなしがわ)だったようだが、流れに出あうことなく、いつしか聞こえなくなっていた。そして、橋の向こう側に建物が見える。休憩所か何かだろうかと言いつつ橋を渡る。熊野古道は未舗装のまま。

吊り橋風の橋と建物がある

吊り橋風の橋と建物がある

橋(熊野古道)を渡る女子

橋(熊野古道)を渡る女子

ここは、中辺路と小辺路(こへち)の合流点で、建物は三軒茶屋跡(さんげんちゃや・あと)だった。かつて、三軒の茶屋があり、旅人をもてなし、賑わっていたらしい。伊舞さんは、「旅人が休憩したり、交錯する様子が浮かんでいる」と話したが、「にぎわい」がにわかには信じられない山の中だ。足元に石の道標がある。「右かうや新道十七り半、左きみい寺三十一り半」とある。右は高野山(高野町)への道、小辺路で、19里半=約77キロ、左は紀三井寺(和歌山市)へのルートで31里半=約124キロということだ。歩こうとは到底思わないほど遠くの地点だが、当時は当たり前のこととして歩いていたという事実に驚く。
三軒茶屋について

三軒茶屋について

石の道標

石の道標

古道が交わるこの場所には、関所もあったようだ。女子2人は、九鬼ヶ口関所と書かれた木の門をくぐり、山道(やまみち)を登っていく。ゴールの大斎原まで、あと2キロちょっとだ。
九鬼ヶ口関所を抜ける女子

九鬼ヶ口関所を抜ける女子

熊野古道を歩く女子

熊野古道を歩く女子

<ちょっとよりみち展望台>

番号道標73番を過ぎた。三軒茶屋跡から1キロほどか。熊野古道は下りに転じた。そこに、「ちょっと寄り道」という案内が現れ、「展望台」へと向かう上り坂へ誘ってきた。「これは『行く』選択しかない」と女子2人。

熊野古道を歩く女子

熊野古道を歩く女子

ちょっと寄り道の誘い

ちょっと寄り道の誘い

なかなかの急な上り道だ。足元には木の根が縦横無尽に伸びている。きっと素晴らしい景色が待っているに違いないと期待を持って上っていく。着いた!と思った広場は展望台ではなかった。このフェイクやめてほしい。というか、ここに1枚、「展望台こっち」の案内がほしい(笑)
見晴らし台へ向かう女子

見晴らし台へ向かう女子

見晴らし台へ向かう女子

見晴らし台へ向かう女子

ゴールの大斎原に立つ日本一の大鳥居が正面に(眼下に)見える!この寄り道は正解だ。必ず寄るべし。声を挙げて喜ぶ女子たち。「もう満足した!」という三浦さんに、「行くよ!」と伊舞さん。来た道を引き返すことなく、熊野古道に戻れる道があるのもいい。さぁ、もう一踏ん張りだ。
大鳥居が見えた!

大鳥居が見えた!

展望台をあとに出発!

展望台をあとに出発!

<祓殿王子~熊野本宮大社>

展望台をあとに、下り坂の山道=熊野古道をしばらく進むと、住宅が見えてくる。足元も舗装された道路になる。最後の番号道標75番を過ぎると、祓殿(はらいど)王子がある。ここも社はなく跡だ。説明を読み、参拝する女子2人。

祓殿王子について

祓殿王子について

祓殿王子に参拝

祓殿王子に参拝

見えてきたのは、熊野本宮大社の裏鳥居。くぐると拝殿の脇を通り抜ける道に出た。初めて見る大社の横顔的景色に見とれながら、この日2度目の神門前へ。ただし、午後5時をまわっていたので、参拝は叶わなかった。参道ではなく、古道を通って大社前まで下っていく。
熊野本宮大社・神門、再び

熊野本宮大社・神門、再び

大社脇を下る(熊野古道)

大社脇を下る(熊野古道)

<大斎原>

このあたりのウォークは、放送では紹介しなかった。大鳥居が間近に見える中、産田社(うぶたしゃ)に参拝し、いよいよ大鳥居に向かって歩いて行く。大鳥居はゴールではないが目標のひとつにはなっている。

産田社参拝

産田社参拝

大鳥居をめざして

大鳥居をめざして

高さ約34m、幅約42m、日本一の大鳥居はやはり大きい。当たり前のことだが、真下に来ると実感する。正遷座130年の横断幕もある。水害に遭うまではこの地に社殿が連なっていたのだなとあらためて思う。
日本一の大鳥居

日本一の大鳥居

正遷座130年の横幕

正遷座130年の横幕

大鳥居をくぐって、神が舞い降りたという伝説の大斎原へ。日没後ではあったが、大鳥居のあたりまでは明るさも感じられたが、木立に囲まれたこの場所はすでに暗い。しかしながら、旅のお礼の参拝はする。「ありがとうございました」という思いが自然に出たと話す三浦さん。「もっとゆっくり寄り道をしながら歩きたかった」と伊舞さん。番組の旅は続く。
大斎原

大斎原

大斎原に参拝

大斎原に参拝

今回の旅ルートは、熊野古道を歩いてみたいという人にオススメのコースだ。普段歩いていない人にとって、7キロの山道といわれると躊躇する人もありそうだが、ほとんどが下り坂ということもあり、初心者でも大丈夫そうだ。ただ、山歩き用の服装や装備、靴と、飲みもの、それに、十分な時間を確保したい。また、トイレが1キロ間隔くらいにしかないことを知っておきたい。できれば、経験者やガイドの同行が望ましい。その上で、ぜひ、チャレンジを。

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