【三県境】
2つの都道府県が隣接するというのはよくある。北海道と沖縄県を除けば、陸地で接しているので、境界線は必ず存在する。では、3つの都道府県が境を接するというのはどうか。これは、線ではなく点になる。このポイントを三県境という。数としては、結構ある。ただ、その場所は、川の中だったり、山の頂上だったりすることが多い。このため、そのポイントに立つことができるところは少ないのではないか、と思われる。だが、その場所を見ることはできそうだ。和歌山県は三県境が多いことで知られ、中でも、北山村と新宮市熊野川町の飛び地の回りには、まとまって5か所ある。こんなところは他にない。かつて、和歌山県が観光の一環でスタンプラリーのようなことをしていたほど。
熊野川沿いの新宮市熊野川町から、北山川に沿って飛び地の方向に車を走らせる。ここは、吉野熊野国立公園の中で、断崖絶壁の景観が優れた渓谷、瀞峡。立っている場所は奈良県。数十メートル先の川をはさんで、和歌山県と三重県がある。そして、見下ろせる川の中心が三県境の一つというわけ。女子2人は、まず、瀞峡の景色に圧倒され、エメラルドグリーンの北山川の流れに魅せられ、インスタ映えする~とスマホで写真撮影に余念がない。
大自然が織りなす景観や、三県境も含めた地域性を案内してもらおうと、和歌山放送新宮支局の気象予報士としておなじみの引本孝之さんを呼んだ。元は物理の先生で、カヌー選手だったこともあり、北山川でのカヌーの競技会には主催者側の役員として運営に関わることも多い彼は、川にも地形にも詳しいのだ。
三県境を見下ろしていたところは、かつて筏流しの人たちの宿があった場所。そんな訳で、眼下は崖にみえるが(事実、崖だが)川原まで下りる細い階段がある。まずは、三県境を間近に望む崖の端まで下りてみる。
切り立った崖と清流が織りなす景色にキャーキャー言いながら下りていく女子2人。川をはさんだ壁のような岩が女子の声を反響させる。自然のエコーのようで気持ちいい。そして、さらに、川原まで下りていく。
透き通った川に多くの魚が泳ぐのが見える。川原は大きめの丸い石でできている。大きめの鴨もいる。ここは、奈良県吉野郡十津川村神下(こうか)。瀞峡観光船が立ち寄る田戸(たど)乗船場になっている。お土産販売などのテントがある。簡易トイレも。そこへエンジン音が聞こえてきた。そう、熊野交通の瀞峡観光ウォータージェット船がやってきたのだ。「ラッキー!」とはしゃぐ女子だったが、船を見て、「カッコイイ!今度はあの船で来たい!」と。
観光ジェット船の接岸や、お客さんの下船、記念撮影などの邪魔にならないように、少し上流方向に移動。北山川の水にもさわってみた。冷た~い!
上流方向をみると崖の上に吊り橋が架かっている。北山川をはさんで奈良県と三重県を結んでいる。案内人の引本さんに軽く誘われて吊り橋へ向かう女子たち。崖のようなところも上ってしばらく行くと、山彦橋という吊り橋の入り口に出た。橋の下をジェット船が行き交う。手を振るバッシーに乗船客も反応してくれる。そして、イザ吊り橋へ。
「ちょっとちょっと待って待って手すりがないよぉ~!!」そんなことを言いつつ、おそるおそる、一歩ずつ橋を進む女子2人。あまりに足取りが軽やかな引本さんとは対称的。山彦橋は、水面まで25メートル、橋の長さは80メートルの吊り橋で、木製の床板と、その両脇に転落防止用ネットはあるが手すりはなく、なかなかのスリルを味わえる。でも、ここから見える上流方向は、さらに絶景なのはいうまでもない。「怖かった~」吊り橋から戻った女子は口にしたが楽しそうだ。
【ただの岩ではない】
北山村音乗(おとのり)。5月から9月に運航されている観光筏下りの発着場を見下ろす駐車場。瀞峡よりもさらに上流の北山川が眼下を流れる。そして目の前には大きな岩がある。案内の引本さんがぜひ見てほしいと女子を連れてきた場所だ。何が見えるかと問われた女子は「岩!」と答える。もちろん岩なんだが、ただの岩ではない。岩肌に地層が見え、それが途切れている。教科書にもある「不整合面」といわれても…。「火山により造られた、沈降したり、隆起したり、圧力が加わったり…海の底だったこともある」などのレクチャーを受ける。感心しきりの女子だが、少し専門的で…。
「その先は北山川によって浸食されてV字谷になっている」という話も。口熊野から奥熊野。和歌山県の最奥部の北山村で旅は終わり、引本さんともお別れ。
【仙人風呂】
せっかくここまで来たからには、冬だけの大露天風呂「仙人風呂」には入っておきたい。というわけで、田辺市本宮町の川湯温泉郷に立ち寄る。
川沿いの道路をはさんだ簡易更衣室で水着姿になり、その上にコートを羽織った女子2人が仙人風呂のある大塔川の川原にやってきた。仙人風呂は、川の一部をせき止めているので、止められていない水の流れ(川)を渡る必要がある。この川は、水なのに、同じ川をせき止めてある仙人風呂からは、湯気が立ち上っている。不思議だ。
時刻は日没のころ。空気は冷たい。その中での水着はコートを羽織っていても寒い。早く入りたいとばかり、2人してお湯に入る。仙人風呂は70℃を超える高温の源泉と、冷たい川の水を混ぜて、40℃くらいの湯温にしている。とはいえ、自然のことだから、熱いところも、ぬるいところもある。おまけに、空気はとっても冷たいので、入った当初は熱い。徐々に慣れ、気持ちよくなる。あと、川底はそのままなので、丸い石がごろごろ、そして、ぬめりが少々。周りの景色は山。これを「野趣あふれる」というのか。
土曜夜は湯煙灯籠が並ぶという。開設期間は来年2月末まで。原則無休で午前6時半から夜10時まで、入浴は無料。入り口に募金箱があるので、気持ちを入れてほしいところ。女子2人の感想は、時間が経ってもぽっかぽか、お肌つるつるで美肌度がアップしたという。
年末年始にいかが?
では、皆さまよいお年をお迎え下さい。
そして、また来年も聞いて下さいネ。
関連リンク
- 上富田町
- 田辺市
- 新宮市
- 北山村
- みるりいな
- 熊野本宮観光協会
- 三県境(和歌山県)
- 熊野交通
- 道の駅おくとろ
- 上富田町観光協会
- 田辺市観光協会
- 新宮市観光協会
- 島津観光協会
- 瀞峡(奈良県・十津川村観光協会)
- 吉野熊野国立公園(環境省)
今回の女子旅サポーター(ナレーション)は、覚道沙恵子アナウンサー。