発見!お宝!みなべ町
2016/02/11
世界農業遺産
「梅一輪 一輪ほどの あたたかさ」は嵐雪の有名な一句。まわりはまだ冬景色だが、ほころんだ一輪の梅が、ささやかながら暖かさを与えてくれる。春への歩みが、わずかながら、でも着実に進みつつあることを知らせてくれるとともに、確かに、そこだけ暖かいとも感じられる様子を詠んだもの。みなべ町を取材で訪れた日は、暖冬といわれた今シーズンに第一級の寒波が到来する直前。四国の高松に始まった記録的に早い梅の開花の知らせが全国あちこちから届く中、日本一の梅産地、みなべ町では、ほとんど咲いていない。花が開いたあとの寒波、まして雪などが降れば、その花は結実しない。そういう意味から、ここの梅たちは、「まだ咲くには早い」と知っているかのようだ。写真の花は、それでも咲いている梅はないかと探した結果、千里梅林で見つけたもの。
京都から船で淀川を下り、河口の渡辺津(わたなべのつ)から、遠く熊野三山へと続く信仰の道「熊野古道」で唯一の海岸の道とされる千里の浜。熊野をめざす旅人たちは、この海で身を清め、山深い道へと分け入ったといわれる地。まだ寒い冬の道すがら、一輪咲いた梅など見れば、春はもうすぐ、そう感じたかもしれない。そんな場所の早咲きの梅と思えば、この一輪もまた感慨深い。そんなことを思いながら役場へと向かった。
「一目百万・香り十里」で知られる南部梅林の近くに本庁舎がある。庁舎の正面には梅の花と町内を流れる南部川をモチーフにした町章と、花が咲いた梅の小枝、それに「みなべ・田辺の梅システム」の世界農業遺産認定と書かれた懸垂幕があった。認定証が誇らしげに掲示された町長室で、小谷芳正(こたに・よしまさ)町長に、まずは、認定の祝意を伝え、その話からうかがった。
そもそも「みなべ・田辺の梅システム」とは。今や押しも押されもせぬ日本一の梅の里を形成するに至ったみなべ・田辺地域では、400年以上前から、作物が育たない痩せた砂地の山あいの斜面を利用し、梅を栽培し、その周辺に薪炭林としてウバメガシに代表されるカシ類の木を植え、水源涵養と崩落防止の機能を持たせた。そして、薪炭林に住むニホンミツバチと梅との共生がこの地域の反映に一役も二役も買った。カシ類は焼かれ、紀州備長炭というもうひとつの産物ももたらした。そうした長い営みのこと。
名称は似ているが、その地に行けば、遺産をみることができる世界遺産とは異なっているが、後世に遺していくべきという思いは共通しているとも言える。世界遺産がユネスコ(国連教育科学文化機関)が決定してるのに対し、世界農業遺産は、国連食糧農業機関(FAO)が認定している。ローマで開かれた最終審査会では、ミツバチの役割が特に高評価され生物多様性の観点から、全委員が推挙してくれたと小谷町長は笑顔で話した。
世界農業遺産に認定された「みなべ・田辺の梅システム」で作られた梅、梅干などとして、今後はPRしていける、世界に出していける。梅関連産業にとっては大きな追い風になりうるものと小谷町長。そんな梅たちは、これから花のシーズンに入り、多くの観梅客を迎える。全国から訪れる人たちにちゃんとアピールしていく必要があるとも。観光梅林としての南部梅林は放送当日の1月30日に開園、山地を開墾して広大な梅畑にした日本一の大パノラマと称され、最近はライトアップした夜梅も人気という岩代大梅林は翌週に開園する。
50年前に見つかり、主力となっている南高(なんこう)だが、自家受粉をしない梅の品種で、ここにミツバチが重要な役割を果たすべく登場する。南高梅は、この時期に繁殖期を迎えるニホンミツバチが、蜜源として花に集うことで、受粉し、結実する。また、夏には、ウバメガシなどの花がニホンミツバチを誘うというのだ。養蜂家が花を求めて全国を巡ることは知られているが、一年を通して、ハチが住む里山がこの地では形成され、うまく循環しているという。見事としか言いようがない。今後も注目のシステムといえる。
「みなべ・田辺の梅システム」の認定証をはじめとした、いろんな証書・賞状などが掲示される町長室。約一年前、同時におにぎりを握る人数でギネス記録に挑戦し、428人で記録達成となった証書もあった。
備長炭振興館
役場本庁舎の近くの国道424号沿いには、道の駅でもある梅樽をモチーフにした「ウメ振興館」がある。そこから、国道を山間地に向けて登っていくともうひとつの日本一、紀州備長炭について紹介する振興館がある。余談だが「ウメ振興館」は旧南部町、「紀州備長炭振興館」は旧南部川村という訳だ。この2町村は、和歌山県内での平成の大合併のトップを切って、2004年10月1日に合併し、現在のみなべ町となった。
紀州備長炭振興館は、決勝戦が和歌山放送ラジオで実況生中継される「梅の里社会人野球」の舞台、清川球場の隣接地にある。ぶらりと訪れた私たちを快く迎え、館内の説明から、備長炭のさまざまなことを教えてくれたのは、みなべ川森林組合の松本貢(まつもと・みつぐ)参事。
館内には、紀州備長炭を含むさまざまな備長炭、それに、木炭が所狭しと展示されている。紀州備長炭は見た目は黒っぽいが白炭に分類される。火を入れると炎は出ず、遠赤外線が放出される。うなぎはもとより、焼き鳥や焼肉など焼き物に重宝される理由がここにある。
備長炭は、とても緻密で硬い。硬度15度以上。紀州備長炭は硬度20度以上にもなり、鋼(はがね)と同じくらいの硬さという。それゆえ、たたくと甲高い金属音のような音がする。この音を利用して、長さで音の高さを調節して作られたのが炭琴(たんきん)だ。去年の紀の国わかやま国体の総合開会式などで演奏された。ただ、とにかく硬いので、ちょうどよい長さにカットするのが難しく、音階あわせが大変と松本参事。
中川アナは、楽しそうに炭琴を叩いていた。
振興館では、この地の炭焼き職人が焼いた紀州備長炭が販売されている。箱詰された製品もあるが、長さや太さ、見た目などを含め、好きに選んで重さで値段を決める「量り売り」もされている。こだわりのある人は、ぜひ、立ち寄ってほしい。
紀州備長炭には、「みなべ・田辺の梅システム」の一翼を担う側面もある。日本一の梅の里だから、「梅システム」としての打ち出しは妥当といえるが、そもそもは、「里山システム」ともいえる。カシ類を皆伐せず、択伐しながら炭に焼いていく。そういう営みも続いている。
頭の上に紀州備長炭を乗っけた青い髪の不思議な少女「びんちょうタン」が主人公のアニメを覚えている(知っている)だろうか。あまりの違和感に、当初、紀州備長炭のイメージや価値を損なうのではないかという反対意見もあったようだが、このキャラクターやアニメがきっかけとなった人たちが当時は大挙してこの里を訪れ、普及に一役買ったという話がある。仕掛け人でもあった松本参事が当時を振り返る。思い入れがあった中川アナは、この出会いに感動の様子。今も、お土産の備長炭風鈴には、びんちょうタンのキャラクターが残っている。
炭焼き職人
紀州備長炭振興館で出会った松本参事が「炭焼きも見る?」と炭焼き職人さんを紹介してくれた。町内で窯を構える小谷浩(こたに・ひろし)さん。まさに、炭焼き中のところへ。和歌山放送を名乗り、中川アナと聞くと「ともちゃんですか?」とご存知だった。のみならず、髭白アナも。和歌山放送のいろんな番組を聞いてくれているようで、この偶然の出会いはうれしかった。初めて会ったのに、長年の知り合いのよう。ラジオは不思議だ。
田辺市出身という小谷さんだが、代々炭焼き職人ではなく、Uターン組。みなべ町の炭焼き職人募集を知って、修行して、今は、独立していると。炭焼き初見学の中川・髭白両人に、きさくに色んなことを教えてくれる小谷さん。
山から、原木を切り出し、窯の中にびっしりと並べ、焼く。火の色や煙の色、においを頼りに焼き加減(火加減?空気加減?)を調整していく。
そして、窯出し作業だけで8時間はかかるという。その作業が、取材に訪れた日の翌日の未明から行うといい、「見に来る」と誘われた。冷え込む予想だったが、この出会い、このチャンスは貴重と、翌朝、最訪問することに。
足元にはロケットストーブ。皆さんは「ロケットストーブ」って知っていますか?知らずにたずねた髭白アナに意外そうな小谷さんだった。
窯出し
翌朝、ふたたびのみなべ町。
オレンジ色の窯の中。1000℃…。「きれい」。ずっと、見つめてしまう。
前日とは一転、職人姿の小谷さん。しかし、きさくな感じはそのまま(よかった)。
「やってみる?」「いいんですか?」
紀州備長炭は硬い。それは知っている。でも、壊してしまいそうで、及び腰。まさに、貴重でホットな体験だった。
南部海岸
去年9月、吉野熊野国立公園のエリアが、紀伊半島西部に大規模に拡張され、南部海岸も国立公園に。
夏、アカウミガメの産卵と孵化でも知られる千里海岸から続く浜は、紀州南部ロイヤルホテル下の小目津(こめづ)公園まで続く。
去年の紀の国わかやま国体では、総合開会式に臨席されるなどした天皇・皇后両陛下が宿泊された。
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